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長崎家庭裁判所 昭和57年(少)1497号 決定 1982年11月12日

少年 G・S子(昭四三・七・七生)

主文

本件を長崎県中央児童相談所長に送致する。

少年に対し、昭和五七年一一月一二日から昭和五九年三月三一日までの間、親権者の意に反しても教護院長崎県立開成学園に入所させることができる。

理由

一  少年は昭和五七年六月一一日長崎県中央児童相談所長の措置により、教護院である長崎県立開成学園に措置された。しかし右措置後の同年七月二五日に右学園を無断外出し、同年一〇月一三日には一旦右学園に連れ戻されたものの、翌一四日には再び右学園を無断外出しているところ、その期間の長さ及び無断外出中の有職少年との交際に鑑み、右学園での指導の限界を超えるものとして、昭和五七年一〇月一九日右所長より、本件強制的措置許可申請がなされている。

二  ところで右無断外出は成程長期間に及んでいるものの、その中の相当期間は父親方及び母親方(両親は昭和五〇年六月二七日協議離婚している。)に宿泊しているものであり、また右学園においても少年の所在が明らかであつた期間がほとんどで、父親が少年を盲愛するあまり強制的に少年を引取りあるいは右学園において連れ戻そうとするのを妨害するなどしたため結果的に無断外出期間が長期間とはなつたものの、その実質は重要視すべきものとは認められない。加えて右無断外出中の交友関係も特に問題とすべき点はなく、また少年は右期間中何らの犯罪行為に出ていないなど右学園入園時と比べて少年の非行性向が昂進しているものとは認められない。

三  一方親権者である父親は少年を盲愛するのみで全く教育的配慮をなそうとしないばかりか、強度のアルコール依存症であつて、心身ともに少年を養育する能力はなく、少年を家庭に帰すことは相当ではない。

四  以上の事情に鑑みると、現時点においては少年を右学園における教護に付するのが相当であると思料するところ、現状では父親が少年を強制的に引取るなどして右学園における教護を妨害する可能性は大きく、その結果少年の健全なる育成の妨げとなる虞れが多分に存する。そこで親権者である父親の意に反しても、少年を教護院長崎県立開成学園に入所させることができることとするのが相当であり、またその期間については昭和五九年三月三一日までとすることを相当と思料する。

(なお一般的にはいわゆる強制的措置とは国立教護院における行動の自由の制限を意味するが、本件は主文のとおり一般例とは異なるので一言する。

少年法六条三項は「その行動の自由を制限し、又はその自由を奪うような強制的措置」と規定しているところ、その親権者の意思に反して少年を教護院に措置することは少年の生活の場を制限するものであるから「その自由を制限する」ものと解するのが相当である。

また強制的措置として親権者の意に反して教護院に入所させることができないものとすると、教護院措置を相当とする少年については親権者が同意しない限り原則として少年の保護事件の係属を待たなければ少年を教護院に入所させることができないこととなり少年に対する臨機応変の措置が採れなくなることとなつて、少年の健全なる保護育成を目指す少年法や児童福祉法などの趣旨に反することは明らかで妥当なものとは言えない。加えていわゆる一般的な強制的措置、即ち国立教護院に入所させたうえその行動の自由の制限ができる場合に比べて、親権者の意に反して全くの開放施設たる教護院に入所させることは、少年の自由を制限するという点においてより軽いものと認められるから、その実質に鑑み強制的措置として少年をその親権者の意に反して教護院に入所させることは当然許されるものと解する。)

よつて少年法一八条二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 加藤就一)

〔参考〕 送致書<省略>

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